食のエトセトラを語る名作邦画
「スーパーの女」などで知られる伊丹十三監督の映画「タンポポ」という1980年代のグルメ映画が好きで、チキンライスの上に半熟オムレツをのせてナイフで切る形のオムライスを広めたのはこの映画とされているらしい。
その冒頭で、トラックの助手席に座る渡辺謙が、運転する山崎努にラーメンに関するエッセイを音読するシーンがあり、「ある晴れた日、ラーメン歴40年の老人に食べ方を伝授してもらう」という趣旨の文章が出てくる。すなわち、お店でラーメンが目の前に置かれたら、
- まずは全容をとくと鑑賞する
- 胡椒の粉が汁になじむのを待って、箸を取り上げる
- 箸の先でラーメンの表面をならすというか撫でるというか、そういう動作をする
- 別に意味はないが、ラーメンに対する愛情表現である
- 箸の先でチャーシューを軽く二、三度つついてからつまみ上げる
- まだ食べてはいけない、さわるだけ
- チャーシューをつまみ上げ、右上方の位置に沈ませ加減に安置する
- 心の中で詫びるがごとく媚びるがごとく「あとでね」とつぶやく
…という、4ページ読んでもまだ食べ始めないような話で、渡辺謙が「ちくしょう、ひどい本だな」と呆れるところからストーリーが始まるんだけど、てっきり架空の本なのかと思っていたところ、伊丹十三の特集を読んだら、どうやら実在する本だったらしく、ここしばらく探していた。
毎日新聞で四コマを描いていた人のエッセイだったのだけど、発行が1980年ですでに絶版になっていて、アマゾンにもブックオフにもなかったのだけど、広島の古書店にあるのが分かってオンラインで取り寄せた。映画に出てこなかった麺を食べる部分の描写にようやくたどり着ける、味わって読みたい。