大学1年の夏にスタディツアーに参加してマサイ族の家にホームステイした話【アフリカ・ケニア】

今回の旅
大学1年の2009年8月、大学のスタディツアーに申し込んでケニアに2週間滞在し、マサイ族の家にホームステイした時の記録です。(2021年8月更新)

ケニアの首都ナイロビから5時間

日本人学生を乗せたバスが向かう

 ナイロビから車で5時間ほど。すでに周囲は見渡す限り地平線。南部のカジアドにある施設で、水や食料を配られ、ガイド役を務める通訳のマサイ族(英語とスワヒリ語とマサイ語が話せる)とともに、マタトゥ(乗合バン)に乗って向かった。大学1年だった自分の相方は、修士2年の大学院生だった。

「いざとなったらこの人を身代わりにしよう」と思うことにした。

マタトゥとはどんな乗り物か

「後ろの荷台に乗れ」と

 マタトゥには、決められた時刻表や運行路線はないらしい。陽気な音楽がスピーカーから流れ、「ドナドナ」のように荷台に揺られる間、何度か、道端にいるマサイがヒッチハイクのように手をあげているのが見える。そのたびに砂埃をたてて車が止まった。どうやらこれがこの車に乗る合図らしい。行き先を伝えて、お金を払う。この車には1時間ほど乗っていたが、なかなか到着しなかったのは、他のマサイの行き先を経由していたからなのだろう。

「ホーム」というか「小屋」

今夜泊まらせてもらう場所

 ホームステイ先に就いたのは夕暮れ。といっても、日本の大学生がオーストラリアなどでホームステイするような家ではない、見た目はどちらかというと「小屋」。事前に読んだ本では、マサイ族の家は木の枝などで骨組みをつくり、土と枯草、牛の糞を混ぜたもの(日本のしっくいのようなイメージか)を塗ってあるというが、まさにそんな感じだった。どこで入手したか分からないが、トタンなども使っているようだった。

子どもがたくさん出てくる

 「日本人が着いた」と分かったのか、家から続々とマサイのファミリーたちが出てくる。見た目からして3~4人が住んでいるのではないかと思った「ホーム」から、ざっと10人ぐらい出てきて驚いた。「まだ出てくるの?」という感じで、この光景が分かりにくい人は、サザエさんのエンディングの逆再生をイメージしてもらうとよいのではないか。

 貫録のある家長(ムゼーと呼ばれる)が近づいてくると、腕を高く伸ばした。ここでガイド役のマサイが「Bow(頭を下げろ)」と言った。年配者の前で頭を下げ、触ってもらうのが挨拶なのだという。今振り返れば失礼なことだが、私はこの時、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」の心臓をもぎとられる儀式みたいなことをされないか、半信半疑で警戒していた。

 ムゼーが自分の頭の上にポン、とのせた。ざっと2、3秒の出来事なのだが、当時の自分にはスローモーションのように感じられた。頭上に手が載っている間、かつて東京国立博物館で見た首のミイラをフラッシュバックした。「このまま握力で首をもぎとられたり、不思議な力で何か吸い取られたりしないだろうか」みたいなことを考えていた(疲れていたのでしょう)。

 後日談だが、この後ムゼーに会うたびにおじぎをした。ホームステイに来る日本人学生はおじぎをするので、マサイ族にとっては「礼儀正しい」とみなされ、心象がいいらしい。そのせいか「お前たちは遠くから来た」「だからお腹が空いているだろう」「たくさん食べなさい」みたいなことを言ってくれて、鍋いっぱいの豆煮ようなものを作ってくれた。鍋には何の肉かは分からないが、肉も入っていた。もちろんスーパーもコンビニもない場所なので、わざわざ自分たちのために、家畜をさばいてくれたのだろう。

小屋の中で焚き火をする

 ちなみに料理はこの小屋の中で焚き火によって行う。当然、煙が出るので燻される。マサイは「この煙が目にいいんだよ」と目を見開くのだが、同伴の日本人院生と「いやいや、そんなわけないでしょ」と思わず日本語で突っ込んでしまった。

夜通し質問攻めにされる

 夜も更けてきたのだが、「日本人がいる」というのが珍しいらしく、近所のマサイが訪ねてきた。チャイを飲みながら「日本には大統領はいるのか」「その人のことは好きか」「どうやって選ぶのか」というような質問をされた。背景には、2008年に暴動に発展したケニア大統領選のことがあるのだろうと思う。

 3畳ぐらいの個室に通された。普段はムゼーの寝室だそうで、牛の皮が敷かれている。「今日はここで寝なさい」というようなことを言われた。厚遇は嬉しいのだが、日本人学生2人とガイドのマサイの3人でシェアしなければならないのである。やむを得ず、川の字になって…と言いたいところだが「川」のように一番左が足を曲げるようなスペースもなく、「iii」のような形で横になった。

 ランタンを消して就寝。真っ暗な部屋で、マサイのお母さんが、お祈りを捧げ始めた。英語ではないので何と言っているかは分からないが、ブツブツと1分ぐらい語り続ける。「厳かな自然と共に生きて、大地の神に祈りを捧げているのかな」と感慨深い気持ちでいたら、最後に「アーメン」。なぜだかちょっと残念な気持ちに。

「ウ〇コさせてくれないか」がホームステイ先のマサイ族に伝わらなかった話【アフリカ・ケニア】